芝生と夢

 先日久しぶりに夢を見た。しかも夢と自覚された夢で、あーこれはなかなか珍しいぞ、どんなものが出てくるやらと思っていたら、僕は芝生の上に立っていた。と言っても明るい昼間でなく、そこは夜の深くなり始めた頃のことだった。何故か僕は裸足で、柔らかい芝生を踏みしめていた。しかも着物を着ていた。ロクに着たことがないのに。これはどうしたことかと思っていたら、何やら人混みの中にいるらしいことにも気づいた。しかも爆発音みたいなのが聞こえる。更には、屋台のようなものが沢山並んでいる。そこは夏祭りの真っ最中だった。喧騒の中僕は浴衣姿で一人で立っていた。爆発音は花火だった。近くにある歩道橋越しに、きらきらと光る花火が見える。何だこれは。確かに三日前くらいにウチの近所で夏祭りはあった。DQNがたくさんいて怖かった記憶はある。でもウチの夏祭りでは花火はないし、付け加えると近所に歩道橋はない。それに足元が芝生である意味が分からない。Vテキの見すぎだろうか。僕はさしたる疑問も挟まず、ただ、これはいつ覚めるのかなと考えていた。

 特にやることも無いので適当に歩いていると、リンゴ飴の屋台を見つけた。なんとなく買おうと思って立ち寄ると、リンゴ飴売りのおっちゃんから物凄い勢いで絡まれた。そんで気が付けば、僕は犯罪に巻き込まれていた。「あんちゃん、協力してくれるな?」とリンゴ飴を渡されながら言われて、僕は首を縦に振っていた。展開が急すぎるが、巻き込まれてしまったものは仕方が無い。助けてあげよう、と思った。おっちゃんは小さい娘さんが敵対する指定暴力団に攫われたらしい。だから一緒に探してくれ。おっちゃんがガラケーで見せてくれた娘さんの写真は、僕が高校時代に少し仲良くしていたAさんという女の子の姿だった。理系でめちゃくちゃ頭が良くて優しくて髪がかなり長くてさらさらしててついでに胸がデカかった。僕は驚きながらも、早くAさんを助けなければ、という気になっていた。おっちゃんと僕は手分けしてAさんを探すことにした。僕とおっちゃんは芝生の上を走り続けた。それから携帯の電波がよく拾える、という理由でビルに登った。体力測定で僕はDのはずだが、何故か垂直でビルを駆けあがった。

 ビルを登った甲斐があってか、犯人はメールを送ってきた。メールには本文がなく、画像だけ。犯人たちから来た画像は、Aさんが顔をボコボコに殴られてるものだった。今思えば明らかにエロ漫画と凶悪犯罪のwikiの読みすぎだが、僕は戦慄した。僕とおっちゃんは果てしないものに挑んでいるんじゃないか。僕は正直逃げたくなってきた。そして僕はおっちゃんを置いて逃げた。おっちゃんが背後で何か言っていたが聞かなかった。こういう時は逃げたもの勝ちなのだ。さながら鉄コン筋クリートのクロとシロのように、ビルから地上へと飛び降りた。着地時の衝撃は凄かったが、足の痛みはなかった。だって地上は芝生なのだから。僕は芝生を再び踏みしめた。新宿のようなビル街を歩きながら、僕はまだ恐怖の余韻を噛み締めていた。ゾワゾワとしていた。早く家に帰ろう、なんて死亡フラグめいたことを思っていたら、携帯が鳴った。なんとおっちゃんの携帯を僕は持っていたのだ。慌てて画面を見ると、犯人からのメールがまた一通届いていた。今回も本文はなく、画像だけだった。恐る恐る添付ファイルを開くとそこには、どっかの公衆トイレらしき洗面台に、べっとりとはりついた長い黒髪が映っていた。唖然としていると、僕の肩に、ぽんと手が置かれた。シャレにならなかったので、僕は夢から覚めた。グーっと目に力を入れて閉じて、開くと大体覚めることが出来るのだ。そうして目が覚めるとそこには芝生もないし、写真もないし、おっちゃんもいない。僕はフローリングの上で横になっていて、時刻は5時半だった。そういう話である。

(2016/08/10)
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